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やがて私は駅を降りた。隣りには「あいつ」がいる。
なんだ、同じ駅を利用していたとは知らなかった。
「先輩はどっちですか? 」
駅前の駐輪場で自転車を出しながら「あいつ」に聞いた。
「ん!? 君は?」
「私はこっちです」
私が一方を指し示す。
「ああ、同じ方向だね」
私と「あいつ」はご近所さんだったのか?
「あいつ」は私の手から自転車を取り、自らが押して歩き出す。
「あかりさん。先に歩いて。家まで送るから」
またまた、私の中の「あいつ」の評価が上がる。
普段であれば歩いても十分ほどの距離の自宅まで、どんどん降り積もる雪のせいで、倍の二十分も掛かってしまった。「あいつ」の押す姉の自転車は、雪に車輪を取られて、いかにも重そうに見えた。
「ここ? そっか。じゃあ、またバイトでね」
そう言って、冷え切って真っ赤になった手を振って「あいつ」は去っていった。今まで歩いてきた道を戻って行く。
私は後で知った。「あいつ」の最寄り駅は神木駅ではない事を。
やっぱり、「あいつ」はいけすかない! だって私の心を奪ったのだから!
完
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