第1章

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 また「あいつ」に怒られた。全く癪に障る。同じアルバイトの立場なのに、たまたま私より長く勤務しているだけなのに、怒られた。  そりゃ、私はちょっと鈍臭いのは分かっているけれど、今までの私の周りの人たちは、それを個性として認めてくれていた。  なのに、「あいつ」ときたら 「君は動作に無駄がある。その無駄をなくすようにするべきだ」  なんて言ってくる。  それができないから私なのだ。こんな風に一々、小言を言ってくるのだ。「あいつ」の言う事には一理ある……いや、一理ではなく正論なのだろう。  それだけに癪なのだ。  そりゃ、「あいつ」は少し格好良い、ううん、少しじゃない、イケメンだ。  同じアルバイトの女の子達からも人気がある。  そのイケメンの口から私に向けて発せられるのは小言だ。  そんな私の心を反映するように、表では雪が降っている。窓の外から見える景色は雪国のように静かで、「しんしん」と雪が降り積もる。 「ゆかりさん。君は帰った方がよくないかい? この分だと電車も止まってしまうかもしれないよ」  「あいつ」が言う。確かに「あいつ」の言う通りだ、内心で「困ったな」と思っていた。でも、人見知りの私は店長に言いだせなかった。私は「あいつ」の言葉に返答する事も出来ずに、ただ雪の様子を眺めていた。  視界の端で、「あいつ」が店長となにやら話しているのが見える。 「ゆかりさん、上がらせてもらったよ」  なんてやつだ!私の事を心配してくれているのではなかったのか。さっさと自分だけ上がるなんて!  私は悔しくて、精一杯、嫌な顔をして睨んでやった。 「あいつ」は「きょとん」とした顔をして、小首を傾げた。 「どうしたの? 帰りたくないのかい?」  帰りたいよ! あなたみたいに、上手く切り出せないのよ! 改めて「あいつ」を見ると、もう私服に着替えている。素早いっ! 「はやく着替えてきなよ。帰りの方向が一緒だから、途中まで一緒に帰ろう」  「あいつ」はそう言って微笑んだ。  えっ!? 私も上がれるの? 私の事も店長に言ってくれたの?  私は何て言っていいか分からずに、こくんと頷くと、そそくさと着替えに向かった。 「あ、あの……。ありがとうございます」  私は、一応、お礼を言った。 「ん!? 何が?」
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