第四章 索敵行動、戦闘開始

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野上は少し膨れながらも、渋々といった感じで頷いた。 「…わかりました。その条件は呑みます。その代わり、セリさんも百とは言いませんが五十パーセントくらいは受けて下さい」 「五十は無理。十…も、多いな。三くらい?百のうちの」 「少な!」 不毛な押し問答の末、結局野上は「ゼロでなければいいです…」と引き下がった。大変に消耗した。 あー疲れた、帰れ帰れ。とばかりに、バタバタ仕事仕舞いを始めるわたしの首根っこを腕で引き寄せ、耳に囁きかける。 「…好きです、セリさん」 「知ってる。何度も聞いたし」 腕を振り払って、近すぎる野上の顔を真っ直ぐに見て言う。 「…あたしは普通だけど」 野上は少し笑って答えた。 「知ってます、それも」 それ以降、しつこく攻防戦を繰り広げた甲斐あって、不意打ちのキスはさすがになくなったんだが、ちょっと気を抜くとスッと手を握ってきたり、肩に腕を回してきたり、挙句コーヒーを淹れようとキッチンに立つと背後からギュッと抱きしめられたり、キスじゃなきゃいいとでも思ってるのか。いい加減鬱陶しくてたまらん。 その度に更にわあわあやり合って、結局は ①キスに限定せず全ての接触において事前許可必須。不意打ち禁止。 ②仕事中の接触は禁止。 ③キスは一日一回。それ以外の接触は一日最大三回まで。基本併用不可。 等の原則が出来上がりつつある。お互い渋々折れたり条件を呑んだり、落とし所を何とか見つけた結果がこれ。しかし、このくだり、仕事と何の関係もないよな。 自分で判断してさっさとなんでも処理できるし、気は利くし、部下としては予想外の掘り出し物、何の不満もないんだけど。という辺りが結局、「仕事上では困ってない」発言にうっかり出てしまったのだが。 「じゃあ、なずなを困らせてるのはあの犬っこじゃないってことでいいのね?」 朱音が更に念を押してくる。わたしの態度のどこかが煮え切らなくて、どうにも引っかかるんだろう。それがわかっているのに、なんで上手く誤魔化せないのか自分。 「そうねべつになんにもこまってないよ」 「何で棒読みなのよ」 気がつくと、カウンターのお客さん達もいつの間にか去って、暇になったらしい友明も隣のテーブルで肘をついてじっと話に耳を傾けている。 「あの子、なずなちゃんのこと好きなんでしょ?それが原因で困ったことになってるんじゃないでしょうね」
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