第四章 索敵行動、戦闘開始

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「こんばんは~」 力ない夜の挨拶とともに、バー『AFTER LIFE(死後の生?どんな店名だ、と言ったら普通仕事のアフターライフだろ!って言い返された。そりゃそうか)』のドアを押して入ると、平日の遅い時間にも関わらずカウンターはほぼ満席だった。珍しい。わたしやその他知り合いの常連しかいない日だって結構あるのに。 カウンターから友明が出てきて、近づきながら声をかけてきた。 「よぉ、なずな今日はひとりなんか。あのワンコ系男子は連れてないの」 「その名前で呼ぶなっつってんだろ」 「いい加減諦めなよ、本名だろ」 ここにきて主人公(つまりわたし)の名前が明かされる展開もどうかと思うが、お察しの通りわたしのフルネームは芹なずなである。何故ここまで出さずに引っ張ってきたかと言うと、単にファンシーすぎて本人が気に入らないから(同姓同名の方、もしいらしたらすみません)。大体うちの両親は、実際のところまごうかたなき普通の田舎のおっさんとおばはんなのに、何だってわたしが生まれた時だけ全生涯分に相当するファンシー成分を噴出したのか。うちの弟は、ごくごく普通の名前、貴利である。 「やぁーそりゃ、芹さんなんて珍しい苗字で、うっかり女の子が生まれたらついやってみたい命名でしょ。まぁ思っても、なかなか実際にやるのもちょっと勇気いるけど」 「そりゃそうだよ。うちの父方の親戚、全員苗字芹だけど、こんな面白い名前つけられちゃったのわたしだけなんだから。大変なんだよ小学校の時とか、ゴギョウとかはこべらとかホトケノザとか言いたい放題言われるし」 「心中お察しします」 カウンターが満席なんで、店の隅に申し訳程度に置かれたごく小さなテーブル席の方へ促される。そこには既に客がいて、当然相席になるが、連れといっていい相手なので了解も取らずに向かいに遠慮なく腰かけた。 「あ、なずなちゃん。ちょっと久しぶり」 「え、そうだっけ?先週会わなかった」 「先週の月曜じゃん。もう十日くらいたつよ」 彼女は学生の時のバイトの後輩で、今は友人。名前を谷崎朱音という。とにかく、大変美しい子である。茶色いふわっとした髪を緩やかにうなじでまとめ、大きな黒目がちの瞳で見あげてくる。外見は惚れ惚れするような美女、でも中身はまぁまぁ適当。というかやや天然がちの大雑把。時折過度に辛辣。そりゃそういう女じゃなきゃわたしとこんなに続くわけないか。
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