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不穏な空気を感じてしらばくれるわたし。
「いやだから、今うちの会社にある本の在庫のリストとか、今までの売買の記録とか…。現在探してる本もリスト作成して、一目でわかるようにしておきたいんですけど。そういう情報がどこに入ってるかもわかんないし、フォーマットもないし…」
ふん、そうきたか。
「よし教えてやろう。それはね、ここだよ」
振り向きもせずに自分の頭を指差した。ややあって沈黙の後、野上のあからさまなため息が耳に届いた。
「しょうもない冗談、止めてくださいね」
「まぁそういう反応しかないよね」
予測は出来た。
「正確に言うと、このパソコンのどっかに入ってはいる。と思う。全部バラバラだけど。あとは本当に真面目な話、わたしの頭ん中だから。申し訳ないとは思うよ、今までそれで何とか回って来ちゃったからさ」
「そりゃひとりでやってらっしゃる分にはそれでもよかったでしょうけど。てか、それにしても、それでよくミスしませんでしたよね。いくら本に関してのセリさんの記憶力がすごいって言っても」
「舐めんなよ。ちょっとそのリスト、見してみ」
野上の手からプリントアウトをひったくり、さっと目を通す。…なるほどね。
「一枚めのここ。これ、作者名違ってる。日渡じゃなくて樋渡。この本とこの本、作者名入れ違ってる。…三枚め、この本ね、どういうわけか二冊同じのがあった。そのこともちゃんと情報入ってた方がいいね」
野上が少し慌てて自分のデスクに戻り(報告遅れましたが、ちゃんと彼の分購入しました)、ガサガサ音を立てて写真とリストとを照らし合わせている。ややあって、心底悔しそうな声がした。
「…本当だ」
「よっしゃ!ざまをみ」
「いえセリさん、勝ち負けじゃないんですよ」
そう言う割にちょっと悔しそうじゃん。
「俺だって、まだ作成途中で、最終チェック前だったんですって。ちゃんと見直し終わった後だったらこんなにミス残してないんですよ」
悔しいポイントはそこか。
「それはわかってる。…悪かったよ、そっちは途中なのにムキになって。大人げなかったね」
「いえそんな…、大丈夫です。何ですか、なんでそんな急に優しいんですか」
なんで今の展開でそんな耳紅くなるんだ。
「まぁ今ので、本当にセリさんの頭に情報が記録されてることは納得しました」
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