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一見、どこにでもいるような平凡な少年、檜山優は、制服である、白のYシャツに黒のズボンに着替えると、手提げの鞄を肩に掛けて、元気よく、廊下を駆けて行った。
「坊っちゃん」
「あ、はい」
突然、優の目の前に、黒服を着た、見るからに怖そうな、サングラスを掛けた、髭面の男が現れた。
「お気を付けて」
「あ、うん。分かってるよテツ」
優はニコッと微笑むと、そのまま、玄関で靴を履いて、ガラガラと扉を開けて外に出た。太陽の光を全身で浴びて、いよいよ今日から、新しい学校生活が始まると、期待に胸を踊らせていた。
同じ制服を着た人々の列に混じり、優は学校を目指して歩いていた。そして、校門を抜けた時、突然、柄の悪そうな連中が、優の目の前に立ちはだかった。
「なっ、何ですか、あう」
「何ですかじゃねえだろうが、テメー、転校生だよな。見かけない顔だからよぉ、新入りはまず、俺様に挨拶するのが基本なんだよ。テメーはそれを怠った」
柄の悪そうな連中の、リーダー格と思わしき男が、優の胸ぐらを掴んでいた。哀れなことに、小柄な彼の体は地を離れ浮いてしまっている。
「ちょいと顔貸せや、この学校のルール教えてやるからさぁ」
「はい、あの、よろしくお願いします」
優は素直だった。それはバカが付くレベルで。彼は本当に学校のルールを教えてもらえると信じている。だから、体育館の裏という、言葉だけでも不吉なものを連想させる場所にも、何の躊躇いも無く向かうことができた。彼は知らない。登校している生徒達が、彼に同情と好奇の視線を向けていたことに。
「取り敢えずさぁ。オラ、そこに立てや」
リーダー格の男は唾を飛ばしながら、優を体育館の外壁に押し付けて、他の男達と一緒に取り囲んだ。この時点でも、まだ彼は危機感というものを持っていない。
「へへ、その女みてぇな顔をボコボコにされたくなかったら、明日までに3万持って来な」
「ええ、僕、そんなお金無いです」
「黙れや」
男の平手が優の頬をバシンと叩いた。衝撃で、優は地面に尻餅を付いてしまう。慌てて、立ち上がろうとすると、後頭部を男の足で踏み付けられ、再び、地面に尻を付けた。
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