116人が本棚に入れています
本棚に追加
だって、太陽がオレのこと嫌いなんだもん。
しょうがないよな。
どこまでも続く白い砂浜。なだらかに持ち上がった砂にコンクリートの堤防。その上に、その海の家は建っていた。
そこで働いている勇魚は漁師の息子で、俺のひとつ年上の幼馴染だ。大きな麦藁帽子にタオルを挟んで、長袖のUVカットのパーカーに黒の長ズボン。UVをカットする薄い色の入ったメガネ。その下の透けるように白い肌は北国の人間特有の、白、だ。
「風太はいいなあ」
俺の家はサーフィンのボードなんかのマリングッズを扱う店をやっていて、貸し倉庫を勇魚の海の家の隣に持っていた。その倉庫の中、持ち込んだタオルケットの上。
上窓からもれる月の明かりの下で、真っ白な肌を晒して、勇魚は俺の真っ黒に焼けた肌を何度も撫でた。
勇魚が焼けない、焼けたら真っ赤に腫れ上がる自分の肌のことを悩んでいたのを知っていたから、俺はその白い肌のことを褒めることは出来なかった。
本当は大好きだったのに。
「漁師の跡取り息子がこんなんだって……誰も喜ばないよな」
窓から入ってくる月光に伸ばされた腕は、青白く光を放って、まるで水の中、腹を見せて泳ぐ魚のようだった。
漁師の跡取りなんて、今時、誰もしやしないよ。田舎じゃまだ珍しいかもしれないけど、ゲイだって、恥ずかしいって世の中じゃないよ。
そう言ってやりたかったけど、そう言えば勇魚はひどく泣くから。だから、俺はただ手を伸ばして、勇魚を抱きしめた。
唇と唇を重ねて、白い肌と黒い肌を重ねて。
勇魚がすべてを忘れてしまうようにと、感じやすい肌に吸いつく。
白い肌がうねって、甘い声を漏らした。
田舎は娯楽が少ないから。漁師や民宿をやってる親達は忙しくて子供にまで目が届かないから。子供たちは子供たちで遊ぶしかない。そうやって育つ子供たちは早熟だ。
勇魚がそうだと気がついたのはいつなのか。
多分、俺はそうじゃなかった。勇魚以外の男に興味はなかったから。
誘われて、女と寝たのは小学生の時だった。
それを勇魚に打ち明けると、勇魚は目を伏せた。白い手が膝の上で震えて、白い顔の中のピンク色の唇がきゅっと閉じた。悲しそうに歪んだ顔。
「なかないでよ。いさな」
「泣いてないよ」
「もう、しないから」
「ないてなんか、いないよ」
「じゃあ、もう、いさなとしか、しない」
最初のコメントを投稿しよう!