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ある施設の情景
古い施設だった。
危なくはないようだったが、見た目には危険なような気がする。
門に立っている少女と私を見つけた孤児院の先生が、駆け寄ってきた。
「夕暮れも近くなったので、送ってきました」
私は、敬語を使うのが久しぶりだった。
「まあ!お世話になりました。どうぞ、是非上がっていってください」
面倒ごとが嫌いな私が、なぜか素直に従った。
(どういうことだろう?)
子供たちや施設の先生に同情するような気持ちはない。
しかし、言葉と身体が勝手に動いてしまうのだ。
(いや、気にすることはない)
自分で言い聞かせた。
この施設は、建て直すか取り壊すか、今、自治体でもめているそうだ。
子供たちは、大きな施設にバラバラに引き取られることになるそうだ。
もし私の良心がうずいたりしても、一億程度でどうなるものでもなかった。
先生に聞いた。
「遠足とか、ピクニックには連れて行ってあげているのでしょうか?」
「いえ、なかなかそこまでは手が回らないので。それよりも、生きていくだけのお金しか回って来ませんので」
子供たちも、この先生たちも、気持ちが重い毎日のようだ。
「そうですか…」
私は、これしかいえなかった。
今日のところはこれくらいにして、今持っているお金を、先生に渡した。
お金で解決できることなら、協力したいと思ったのだ。
勝手なお金の譲渡は許されていないので、寄付金として、自治体発行の用紙に記した。
取り合えず、この日は帰ることにした。
「また明日来ます」
とだけ、告げて私は家路についた。
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