ある男の心情

1/2
前へ
/6ページ
次へ

ある男の心情

「物集女健一郎様でいらっしゃいますか。こちらは、天照銀行 素佐能男支店 投資信託課の海幸と申します。健一郎様はご在宅でいらっしゃいますか?」 「オレだが」 「このたびは多額の入金、誠にありがとうございます…」 オレが入金したわけではないんだけどな。 この電話、銀行内の情報の横並びをよく表しているように思える。 多額な金額が口座に振り込まれた時に、必ず掛かってくるのである。 これで二度目だ。 一度は、退職金の時。 1500万だったか。 そして今回、先日買った宝くじが当って、銀行振込みにしてもらった。 今日、入金予定だと聞いていたが、確認に行く必要はなくなった。 「是非、当銀行のファンドをご利用していただくことをお勧め…」 相手も仕事なので、顧客の情報を検索して売り上げを上げたいのだろう。 仕方のないことだろうが、ファンドに興味はないので、もし入用ならこちらから出向く、と言っておいた。 定年してから、暇な毎日だ。 友人はいない。 趣味もない。 家族もいない。 気楽で気ままな、ひとり暮らしだ。 一日の友は、テレビと少量のビール。 毎日がこの繰り返しだ。 宝くじで一億当り、もう金の心配も要らなくなった。 (オレの人生、なにが楽しかったんだろう) 自問自答する。 答えは出ない。 そういうもんだろう。 人のことは気にしないが、どういう人生を歩んでいるのかは気になる。 ただ、興味があるだけなのだが。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加