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『オイオイ、家出って君、荷物も持たずにかい。何だかんだ偉そうにしてても、所詮お子ちゃまですな。』と思ったけれど、もちろん口には出さずに、
「どうして家出?」
と尋ねると、
「ママと喧嘩したの」
と曰う。『ハイハイ、ママと喧嘩したですか。』とも口には出さずに黙って聞いていた。
「ママが急にイタリアに行くから、麗佳も支度しなさいって、突然言い出して。」
「ん?」
「あの人が、倒れたんだって。ママのお相手。」
とあっけらからんとおっしゃる。
「ママのお相手って、もしかするとお父さんの事?」
さりげなく聞いてみると、
「そうとも言う。」
と、だんだんと日頃のノリを取り戻してきた麗佳に警戒しながらも話を進めた。
「イタリアで、お父さんが倒れられたから、お母さんが、君にも一緒に行って欲しいとおっしゃっられたという事?」
「私、そう言わなかった?」
『出たぁ、あの人をバカにする目だ、オイオイ。』
「それで、どうして喧嘩になるのかな?」
「あの人は、麗佳のパパじゃないのよ。ママのお相手。」
? 最近の日本語は難しい。(「美しい日本語」が本来の意味を離れて、どんどん感覚的になって来ている気がしませんか。夏目さんや森さんや川端さんあたりは、さぞ嘆かれておられることでしょう。三島さんあたりには、殴られますな、多分。)やれやれ、また厄介な事に巻き込まれたようだ。
「麗佳のパパは、麗佳が二歳の時に、事故で死んじゃったのよ。だからあの人はママのお相手なの。」
なるほど、気持ちはわからない訳ではないけどねぇ。しかし無理なものは無理です。ここはきっぱりと申し伝えました。
「うん、それで一緒には行きたくないって訳だ。でも、泊める訳にはいかないよ。家まで送るから、一緒に帰ろう。」
すると麗佳は、何事も無かったかのような表情で、右斜めに一五度に首を傾けながら、
「家には入れないの。ママもう飛行機でどこかの空を飛んでいるから。」
と曰う。麗佳のわがままはママ譲り?って洒落じゃないよ、それどころじゃない。
こんな時は、モモに相談だ。僕は彼女の携帯に連絡した。でも残念なことに、彼女の携帯は留守電モード、連絡不通の状態だった。
「誰か泊めてくれそうな友達はいないの。」
「いない。だって友達一人もいないから。」
だと思っていましたよ、一応聞いてみただけですから。
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