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そんな訳でいま麗佳は、僕の部屋にいる。珍しそうに辺りを見回しながら、
「意外に綺麗にしてるんだ。」
と曰う。最近、掃除しておいてよかったよ、たまたま偶然なのだけれど。
「まあ、座れば。」
「うん。」
こんなところをモモに見られたら、彼女は少なくてもいい気分ではなくなるよね。というかもう二度と口をきいてくれなくなる気がする。その最悪な状況だけは何とか勘弁してもらいたいものだと切に願っている僕に、
「ビールある?」
と、麗佳が尋ねた。
「ビール!なに言ってるの、君は中学生なんだろ。」
「いつも、ママと呑んでるもの。」
ありゃりゃ、君のママ、少し変だよ、まだ中学生の自分の娘と晩酌するなんて。
「はい、どうぞ。」
と、渡したのはぺプシゼロです、もちろん。お泊まりにビールじゃ、何も無くても誰も信じてくれないですよね。
「君のママは、君を置いて飛行機の中なんだ。」
「今朝一番の飛行機で飛んで行ったよ。ママは、お相手に夢中だから。」
どうも会話の意味が今一つ理解出来ない。というか、ピンと来ない。そんな事ってあるのだろうか、って今、目の前で起こっている訳だけど。取りあえず明日には、モモに連絡して何とかしなきゃ。
「お風呂ある?」
「ない、シャワーだけ。その奥だよ。」
「ありがと、借りるね。」
そう言うと、麗佳はトイレと一体型のユニットの中に消えていった。僕は明日、この経緯をわかりやすく尚かつ誤解が生じないように、モモに説明する言葉を探すのに忙しかった。 この状況を的確且つ冷静に理解してもらうにはどう説明すればいいのだろうと頭を抱える僕に向かって、ノー天気な声が届いた。
「タオルないよ~、それから着替えも!」
いきなりの麗佳の大声で我に帰った僕は、取りあえず、タオルと適当にTシャツ、短パンをドア越しに渡し、明日の事を考え続けていた。
「あのね、も少しましな服は無いわけ?」
見上げると一撃必殺のロゴ入り黒いTシャツと、白の陸上用の短パン姿の麗佳が立っていた。これは笑える、が、そんな素振りは見せずに(見せたら大変)急いで探して別のTシャツを渡した。ロゴは(NIKE)まずまずだ。
「はい、どうぞ。」
「まったく…」
と、よく聞こえない言葉を残して、彼女はユニットに消えた。
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