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 今夜の麗佳は何故か素直だった。だから勉強もスムーズに進み時間にゆとりができた。『早く帰れるぞ、ラッキー』と思った矢先、麗佳の表情が一変した。 「カツミの彼女見たよ、趣味悪いね。」 オイオイ、余計なお世話だ。 「何処で?」 「小田急でカツミがデレデレしてるのみてわかった。隣に立ってるおばちゃんが彼女だって。」 「おばちゃん?」 ってモモも中学生からみたらおばちゃんになるのかな?最近は高校生でも自分の事をおばさん何て言ったりするからな。 「うん、カツミより年上でしょ。趣味悪いね。」 という言葉の割にはどこか元気ないような気がした。  そんな麗佳は、ちょっと心配だけどナイフの飛び方は尋常じゃなかった。それでつい僕は、やや冷静さを失って強い口調で言ってしまったんだ。 「それは君とは関係無い事だ!」 って。  麗佳は鋭い視線で僕を見たかと思うといきなり僕の胸に飛び込んできた。突然の展開に『何がどうした?』的状態のまま暫く呆然としていた。そしてそっと見下ろすと僕の腕の中で泣きじゃくっている麗佳がいた。 「ごめんね。」 と、どうして僕が謝らなきゃいけないのかわからないまま何とかこの状況を落ち着かせようと何度も繰り返していた。 すると、 「ごめん。」 と呟き、突然机に向かった麗佳は 「出てって。」 と宣う。思春期の女の子の心理は難しい。 『一体何が起きたんだろう?』的気持ちをひきづりながら、僕は麗佳の部屋を出た。あんな麗佳は初めてだ。学校で何かあったのだろうか。もしかしたら『いじめ』?性格はあまり良くないけど一応僕の生徒だし最近変なニュースが続いてるし発作的に死んじゃう一部の超刹那的中高生の実態もあるしと明日の朝刊の記事さえ脳裏に浮かんできたりして、とりあえず駅から彼女の家に電話して彼女の母親にそれとなく彼女に気を配るようにお願いした。余計なお世話だとしても、何かあったら困るからね。だって麗佳はまだ中学三年生、十五歳なんだから独りでは解決出来ない問題は山ほどあるし死にたくなる位に困ることだってきっとあるだろうと思う。(でも命をかける程の問題なんて、そんなに沢山ある訳じゃないってことがわかってくるのが、ある意味大人になるってことかもしれない。取りあえず困った状況になったら百メートル十四秒位のスピードで逃げてみたらいいよ。それで逃げ切れるなら大した問題じゃないことが多い。)
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