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目が覚めて初めて、自分がうたた寝をしていたんだと分かった。
赤い温室の中に置かれたベンチの上で片膝を抱えて座っていた龍樹は、つっかえ棒代わりにしていた緋姫を抱え直しながら周囲に視線を走らせた。
どうやら温室の中に龍樹以外の人間はいないらしい。
風も季節も知らない彼岸花の園は、ピクリとも動かないまま鮮やかな深紅の花を咲かせている。
掃除人が片付けモノの傍に捧げるために栽培されているのだと分かっていても、その光景は十分に美しいものだった。
「……」
夢を、見ていた。
幼い頃、絶望しか知らなかった時代の夢を。
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