Lycoris ―掃除人と天上の華―

5/13
前へ
/13ページ
次へ
 ……夢は、幼い頃の自分が望むことのできた、精一杯に綺麗な死に方の具現だった。  どこまでも真っ赤に続く彼岸花の中に埋もれて、己の中から流れ出る赤を同化させて、誰にも看取られることはなく、ひっそりと消えていく。  やがて彼岸花の中に溶け込んで消えていけるならば、自分のように両手が真っ赤に染まった者でも、境界の岸辺へ連れていってもらえると思ったから。 『龍樹。彼岸花には、異名がたくさんあってね。  ……死人花、幽霊花、そして、曼珠沙華』  曼珠沙華とは、天界に咲く花を意味する名前。  吉事が起きる前触れとして、天からこの花が降るという。  凶事を示す名が並ぶ中で唯一、吉祥を表す名前。  ……だから、幼い頃の自分は願った。  安らかに死ぬことは許されない身であると、当時すでに、理解していたから。  せめて死ぬ時は、曼珠沙華に死を吉事として彩ってほしいと思ったから。  血濡れた生が終わる祝福が欲しいのだと。  それだけを、願っていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加