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……夢は、幼い頃の自分が望むことのできた、精一杯に綺麗な死に方の具現だった。
どこまでも真っ赤に続く彼岸花の中に埋もれて、己の中から流れ出る赤を同化させて、誰にも看取られることはなく、ひっそりと消えていく。
やがて彼岸花の中に溶け込んで消えていけるならば、自分のように両手が真っ赤に染まった者でも、境界の岸辺へ連れていってもらえると思ったから。
『龍樹。彼岸花には、異名がたくさんあってね。
……死人花、幽霊花、そして、曼珠沙華』
曼珠沙華とは、天界に咲く花を意味する名前。
吉事が起きる前触れとして、天からこの花が降るという。
凶事を示す名が並ぶ中で唯一、吉祥を表す名前。
……だから、幼い頃の自分は願った。
安らかに死ぬことは許されない身であると、当時すでに、理解していたから。
せめて死ぬ時は、曼珠沙華に死を吉事として彩ってほしいと思ったから。
血濡れた生が終わる祝福が欲しいのだと。
それだけを、願っていた。
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