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『ねぇねぇたっちゃん!
あのね、彼岸花ってね、こんな異名があるんだって!』
脳裏に浮かぶのは、底抜けに明るい声。
いつでもふわりとなびく髪は光の粒を纏っていて、キラキラと琥珀色に輝く。
『双思華……
ほら、彼岸花って、花と葉が同時には出ないでしょ?
花が咲く時に葉はまだ出てないし、葉が出た時には花は枯れちゃってる。
だから葉は花を想い、花は葉を想う……
そんな言葉を持つ花なんだって!』
彼女は、掃除人としての装束を纏っていても、軽やかに笑う。
でもその裏で何度も泣きじゃくってきたことも、龍樹は知っている。
何をしても、守りたいと思った。
リコリスの影の高官を歩む宿命に感謝したのは、彼女の命を救う決断をした、あの時だけだ。
でもあの一度きりのために自分の人生があったと思ってしまったから、もう自分は何度選択の時に戻れても、安らかな道を選ぶことはできない。
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