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「下っ端でも掃除人でさえいれば、国は存在理由を認めるんだ。
下っ端でいれば、こなす仕事の数は少なくて済むんだ。
……だから」
彼女に出会って、欲を知った。
そもそも『希望』なんて知らなかった自分が、望みに果てがないことを知った。
「……お前は俺みたいに、深みに嵌んなくていいんだ、バカ」
最初はただ、生き延びることを望んだ。
だから存在理由を失った彼女を、自分が掃除人として推挙した。
でも、生きていられることになったら、今度はつらい目には遭ってほしくないと願ってしまった。
だから自分がかばえるように、無理を通して彼女の相方の座に無理矢理収まった。
彼女の傍にいられるようになったら、なるべく笑っていてほしいと思うようになってしまった。
笑顔が見れたら、その表情がずっと続けばいいと望むようになってしまった。
「……葉は花を想い……ねぇ」
ぼんやりと呟いた瞬間、温室の中の空気がわずかに動いたのが分かった。
それに気付いた龍樹は顔に浮かんでいたあるかなしかの笑みを意図的にかき消す。
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