第1章 ダンジョンとはなんぞや、とカヤーマは問う

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 王国に今年も春がやってきた。  街道の雪解けとともに草花も芽を出し、動物たちもその暖かさに釣られ柔らかな葉を一心不乱に食べている。  その様子を傍目に見ながら、まだ年若い少年少女がガルシスの街を目指して歩いていた。幼さの残る顔には期待と不安が見て取れるが、その足取りは軽かった。  彼らはガルシスの街からほど近い農村からやってきた、冒険者志望の若者たちだった。      農村の暮らしは貧しい。ましてや次男三男ともなれば、その扱いは軽かった。そんな彼らにも一筋の希望はある。  そのちっぽけな希望に縋り、一旗揚げようと冒険者になるのである。  大半の者は挫折し、または戦いに敗れ死にゆくことになるが、それでも冒険者になる若者は後を絶たなかった。  日々の生活の中でなんとか遣り繰りし必至で貯めた小銭を手に、冒険者志望の若者たちが都市の冒険者ギルドに向かう姿は王国の春の風物詩となっていた。  何とかガルシスの街にたどり着いたその少年少女は、街の大きさと人の多さに目を回しながらも何とか冒険者ギルドに辿り着くことが出来たようだ。  おっかなびっくりギルドの扉を押し開き、恐る恐る足を踏み入れた彼らに中にいた歴戦の古強者たちが目を向ける。  その視線にあどけない少年少女たちは身を固くするが、リーダーと思しき少年が意を決したようにギルドの受付に向かう。  受付にいる気の良さそうな女性従業員に冒険者の登録を申し込むと、従業員は手馴れた様子で説明しだす。  その説明を彼らは必至な顔を聞き、時に頷いていた。  その初々しい様子に他の冒険者たちの顔も綻ぶ。きっと自分たちの若い頃を思い出しているのだろう。  説明が終わったのか、気の良さそうなその従業員は少年少女を手招き、ギルド裏手の訓練場に連れて行った。  訓練場に入るとそこには見事な顎髭を蓄えたドワーフが立っていた。  ドワーフは年若い侵入者をギロリと睨むと、大仰に言い放つ。  「ワシがこのギルドの新人担当教官である」と……
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