序文

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序文

僕は、小さな頃から大人達に可愛がられた。 賢い子供、優秀な子供、将来はきっと地位の高い素晴らしい仕事に就くだろう、とまわりの大人達は僕を褒めた。 両親も人前で僕を褒めた。僕は大人達が喜ぶことをしただけであって、決して優秀だとは思わなかった。 なにをすれば大人達は喜び、僕を褒めるのかわかっていた。 時々、僕自身が嫌な奴だと思うこともあったが、大人達の喜ぶ顔を見ると僕は優秀な子供を演じなくてはいけないと思った。 しかし学校では、勉強ができるわけでもなく、スポーツが他の生徒よりできるわけでもなかった。 その上、部活動をしていなかったので友達も少なく、女友達は全くいなかった。 クラスでは特に目立たず、虐められる生徒という訳でもない、ごく普通の生徒だった。 ただ、他の生徒と少し違っているところがあるらしく、それは随分前から僕のまわりの人達は気付いていた。 仲良くなった友達に聞くと、付き合いにくいところがあるらしいが、それ以上詳しくは教えてくれなかった。 僕自身、気分屋なところがあるのはわかっていた。それ以上に僕には、聞きたくても誰にも聞けない秘密があった。 それが理由なのかはわからないが、僕の友達はみんな少し癖のある人付き合いが苦手な連中が多かった。 日曜日にクラスの友達と映画を観る約束をしていた。 少し前に流行ったハリウッド映画だけど、僕はつい最近までその映画を観たいとは思っていなかった。 その映画のテレビCMを観たときに、典型的なハリウッド映画であることを前面に押し出し、主演俳優の人気のみで客を集めようとしているのが見え見えだったからだ。 しかし偶然読んだ週刊誌の映画評論コーナーで、普段はあまり褒めない映画評論家がその映画を大絶賛している記事を読んでから気が変わった。 その評論家によると、俳優の演技よりも脚本自体がとてもよく、さらに監督のセンスが映画をより素晴らしくしているとのことだった。 友達にその評論家の話をすると、彼も興味を示したので一緒に映画を観に行くことになった。
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