序章

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 冬は、いつも季節を埋めにくる。  春が来て、夏が過ぎ、秋が終わり、その全ての季節を雪が覆い隠す。 それを春が溶かしに訪れて、夏は拍車をかけるように世界に熱を持たせ、秋はそんな夏の死体を拾いに来るのだった。  永澤 翔子は冬が好きだった。 夏が来ると、いつも冬が恋しくなる。 冬にはコタツがあるし、冬休みもある。冷え切った中で食べる温かいお鍋は最高だ。 クリスマスのイルミネーションや、年末年始の喧騒は苦手だが、人々の誰もが誰かを恋しがり、孤独に打ち震え、感傷的になるような、そんなセンチメンタルな季節が好きだった。  ショウコは、あの寒い季節を思い出しながら、やがて夏の報せを告げに来る梅雨の音を聞いていた。  朝、アラームの音で目を覚まして、ショウコは誰もいない一階の食卓を見た。 テーブルの上にはカップ麺のシーフード味と500円玉が置いてある。「お湯を入れて食べてね」というような置き手紙らしきものは無い。カップ麺にお湯を入れて食べるのは当然のことだ。 夜勤明けの母は自室で寝息を立てているだろう。朝からカップ麺を食べる気にはなれず、これは夕飯にしよう、と考えながら、500円を制服のポケットに入れて顔を洗いに行った。
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