序章

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 行ってきます、の一言もなく、ショウコは自宅を出た。 薄汚れた自分のローファーを眺めながら、ぼんやりと学校への道中を歩いていると、背後から「永澤!」と声をかけられた。  振り返ると、同級生の東海林 大和がいた。 「東海林君、おはよう」とショウコが声をかけると、彼はオッスーと元気そうな笑いを見せて、歩幅を合わせるように隣へ寄ってきた。  ショウコが東海林と出会ったのは、一年前、ちょうど中学一年の今頃の季節だった。 その頃、教室の後ろの黒板には、クラス全員の「わたしはこんなひと」を貼っていた。 名前や趣味や特技などの質問文に答えて、自分はこんな人だとクラスメイトに紹介するシートだった。 ショウコはあまり自己アピールが得意ではないし、これといって他人と変わった趣味を持ち合わせている訳ではないので、さぞつまらない文になっていただろうと我ながら思う。
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