序章

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 ある日の朝、祖父、所謂母方の父が亡くなったとの報せを聞いた。頻繁に親しくしていたわけではないが、幼い頃に優しくしてもらった記憶が朧気ながらに残っている。 その祖父の訃報を聞き、涙に暮れることはないものの、母はひどく悲しんでいたし、何となく暗い気分で登校したのだった。朝からの腹痛も、そのせいだと思っていた。  一時間目の体育の授業で、ショウコはひどい失態を晒した。幼い頃から心臓が弱い為に小学生の頃はずっと体育を休んでいたせいか、運動はからきし駄目だった。 ショウコは跳び箱の上で大きく尻餅をつき、それどころか跳び箱から降りられずその上でしどろもどろしていた。 教師は「永澤さん、頑張りなさい!」と手を貸してくれないし、生徒たちの注目は集まるしで、ますます緊張感と恐怖心を煽られ、もう泣きたい気分だった。  五分以上そこで立ち往生した後、やっとの思いで脱出した跳び箱の表面には、真っ赤な鮮血が張り付いていた。  ショウコの初潮だった。  きゃっ、と女子生徒の誰かからか短い悲鳴が上がり、そこからはもう地獄だった。 教師からは「大丈夫?」よりも先に「なんで言わなかったの!」と叱られるし、 女子からは一人の生徒を筆頭に「不潔だ」「生理がうつる」「気持ち悪い」と騒がれ、男子からは「永澤、生理かよ! 汚っねー!」と避けられるしで、もう最悪だった。  恥ずかしくて、悔しくて、教師に連れられ保健室に行ったものの、精神的に回復せず、その日は早退した。 ただ、東海林がその場にいなかったことが唯一の救いだった。
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