一億屋

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 ある噂が巷に流れている。  なんでも、一億円払えばどんな願いでも叶える男がいるそうだ。  その男――人間ならば十八歳の少年。  人ではないその少年は、不幸な境遇で大金を手にした幼き者の前にしか現れない。  寝静まった夜、不思議な力に導かれて夢の中で逢うのだ。  今宵もまた、一人の不幸な少女のもとに少年は現れる。  幾筋もの涙の痕が残る、幼き少女の枕元に立ち――   ***  ある夜――  雷鳴が轟く中、激しい雨がバチバチと音を立てて窓を打ちつける。  時折走る稲光に、隙間無くきっちりと引かれた厚手のピンク色のカーテンが不気味に光る。  雷が怖くて自室のベッドで頭まですっぽりと布団に入ってしまっている少女――名を涼(りょう)と言う。  最初は遠くで轟音がしていたが、今は間近で何か爆発でもしたかのように、ドカンと落雷する。  その度に窓ガラスがビリビリと響くので、あまりの恐怖にいよいよ泣き出しそうになっていた。  今年で九歳になる涼は、普段よりも夜更かしをし、午後十一時にベッドに入ったが、不思議と寝付けず、ベッドサイドのライトをつけてマンガを読んでいた。  そして一時間もすると睡魔に誘われ、ようやく眠りについたのだ。  が――  急に窓に雨が打ちつけ始め、遠くで落雷の音がすると、すっかり目が覚めてしまった。  それから一時間……もう怖くて限界だった。 「……お姉ちゃんのとこ行こ」  誰に話すでもなく、そう呟くと、涼はスルリと布団から出る。  そして音も無く自室を横切ると、そっとドアを開けて姉の部屋を目指した。  雨の音が響く中、真っ暗な家の廊下をゆっくりと歩く。  資産家の父が建てたこの屋敷は、二階に廊下を挟んで三部屋ずつ、計六部屋ある。  その内の一番奥が涼の部屋であり、一番手前に姉の部屋があった。  なお両親は、一階の寝室で寝ている。 『ドガ――ンッ!』  隣の未使用の部屋の前を通る時、突然雷鳴が轟いた。 「きゃっ!」  家を揺るがすほどの轟音に、耳を塞いで立ち尽くす。
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