一億屋

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 足が竦んで動けなくなりそうになるが、温かい姉のベッドに潜り込むイメージを原動力に重い足を前へ前へと出した。 『カチャリ』  そっとドアを開ける。 「あれ? 電気ついてる?」  そして明るい部屋に一歩入る。 「……お姉ちゃん、いないの?」  小声で尋ねるも、布団の剥がれたベッドに人影は無かった。 「おかしいな……下かな?」  ここまで来て自室に戻りたくはなかった。  もしかしたら、姉も雷鳴が怖くて両親のところに行ったのかもしれない。  電気をつけっぱなしなのが不自然だが――そんな事を考えながら、無人の部屋を後にした。  轟雷続く中、廊下から階段から、ところ構わず明かりをつけながら涼は一階の両親の寝室を目指す。  そして一階に下りるとリビングを突っ切り、廊下に出たところでようやく辿りついた。 「あれ、……開いてる?」  真っ暗な寝室のドアが半分くらい開いていたのだ。  そっと身体を忍び込ませる。 『ガガガ――ンッ!』  途端、一際近くに落雷した。  暗闇の寝室が雷光に浮かぶ。  次の瞬間。 「きゃ……キャァ――ッ!」  涼が叫ぶ。  そのおぞましい光景に。  見知らぬ男がヌラリと光るものを片手に立っていたのだ。  黒い目出し帽を被り、黒い服を着ている。  更にカッと閃光が走る。  見えた――見たくなかったものが。  父と母がそれぞれベッドの上に倒れている。  おびだたしい量の血を撒き散らして。  そして母のベッドの近くの床にうつ伏せで倒れている姉。  大きな血溜まりができている。
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