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沖田総司と藤堂平助は困惑していた。
沖田が新撰組の屯所前にいた行き倒れを拾ってきたのだ。
その行き倒れは濃い緑色の着物に黒い袴姿、琥珀色の短い髪、手には竹刀を持っている。
行き倒れというにはいささか綺麗すぎる身なりである。
そして、もうひとりはえんじ色の着物に黒い袴、黒い長い髪をポニーテールに結び、その根元にはピンク色の勾玉の付いたかんざしを挿している。こちらも同様に小綺麗な状態である。
「平助。この人たちどうしましょう?」
「どうしましょうって、こんな怪しい人拾ってどうするのさ。
また、土方さんに怒られちまうよ。」
沖田は動物や迷子の子供を屯所に連れ帰る癖があり、上司である土方歳三や同僚たちが呆れることがしばしばあった。
「‥‥あれ、ここはどこ?
津田に藤高じゃないよな?」
ふたりが言い合う最中、問題の行き倒れのひとりが目を覚まし、意味不明なことを呟いている。
「アンタ、何者だ。
どうして新撰組の屯所前に倒れていた?」
藤堂が緑色の着物を着た背の高めな行き倒れに質問をする。
「‥‥。」
行き倒れは急に黙り込んでしまう。
そして、当惑した表情を浮かべながら、藤堂に迫ってくる。
「‥‥今はいつ‥何年ですか?」
「アンタ、大丈夫かい?
今が文久3年(1863年)の10月だってことは近所の童も知ってるよ。」
「私は支倉翠。今から150年先の時代の人間のはずなんです。
そして…ここに来た理由は、自分にもわからない…。」
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