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「お前なぁ、レポートは完璧なのに、授業態度最悪なんだけれど。」
私は先ほどの講義の後、緋野さんと学食でお昼を食べている。
「だってぇ、バイト明けで眠いんです。
講義に出ない奴らに比べればマシでしょう(笑)?」
緋野さんは2週に1回講義を休講にするため、休講の翌週の講義内容は半分が前回の復習で終わる。
そのため、例え講義中に寝てても、後で藤高(フジタカ)のとったノートを確認すれば事足りるのである。
「そりゃあ、そうだが…
お前、藤高に感謝しろよ?」
藤高…朱海藤高(アケミ フジタカ)は私の幼なじみで1学年下の後輩、私からしてみれば弟分の様な存在である。
そして、緋野さん…緋野暁助は私たちの通う大学の教員で、藤高や私の兄貴的な人である。
「あぁー、ふたりとも探したんだよぉ~。」
藤高が私たちのもとに駆け寄ってくる。
男にしては低身長で女顔の青年が、小動物的な動きで愛嬌を振りまきながら接近してくる。
「翠(スイ)、講義中また寝てたでしょ(笑)?
どうせノートもとってないんだろ。」
藤高は先ほどの緋野さんの講義内容が丁寧に書き込まれたノートを差し出してくる。
翠(スイ)…支倉翠(ハセクラ スイ)とは私の名である。
私は2年で藤高は1年だが、緋野さんの担当科目は教養科目のため、全学年共通で受講できる。
「ありがとな。後でなんか奢るよ。」
いつものたわい無い会話を続ける藤高と私を見つめ、緋野さんが予想外の言葉を発した。
「…翠は前世の記憶って信じるか?」
私の頭の中が一瞬真っ白になる。
そして、あの悪夢が頭の中を過っていく。
「…えっと…まぁ、私もそれっぽいのを見るから多少は信じてるけれど…」
今まで何度も見た油小路の変の場面は、私の中の前世の記憶の断片なのかもしれない。
「もしかしたら、お前や俺の前世が新撰組隊士かもしれねぇんだ。」
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