第1話

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ただ、僕だけは釈然としなく、ただ、離婚届の紙を眺め続けていた。 会社に通うのが、億劫になった。 前にもそれほど行きたいとは思わなかったが、離婚届の用紙が幸子から届けられてからは、本当に会社に行くのが億劫になった。 出来れば遠くに逃げたかった。 何がどうしたのか、幸子に聞きたかった。 突然で、僕は何をどう対処していいのか分からず、ただ日常の会社勤めだけが、なんとか、なんとかこなしていた。 灰色の通勤ラッシュ、都営新宿線は、いつも通りサラリーマンやOLを飲み込んでは吐き出していた。 僕も森下駅で飲み込まれた。 僕も新宿駅で吐き出された。 吐き出されて、会社に行くのが凄く億劫になった。 いずれ、上司に話さなくてはいけない。 いずれ、総務に言わなくてはいけない。 いずれ・・・・。 今度の日曜日に僕と幸子は会う。 双方の両親たちが一同に集まり、この事態を話し合うのだ。 その日が来るのが、正直言って憂鬱でもあった。 両親同士の話し合い。 僕は、どうその場でたち振る舞えば良いのだろうか? 日曜日までの地獄 土曜日の夜に、先方と言うか、幸子の母親から電話があった。 「本当に申し訳ありません。あの娘が、あんなことをするとは」 母親は低い声で、本当に申し訳なさそうにそう言った。 「いえ、お義母さんが謝ることではありませんから」 「そう言われましても」 お義母さんと、もう言わない方がいいのでは、と、一瞬!僕は考えたが、正式な離婚はまだなので、まだ、お義母さんと言ってみることにした。 「本当にどうしちゃったのかしら、幸子はそんな訳の分からない娘じゃなかったのに」 「僕も、そう思います、これが、何かの間違いで有れば良いのに、と考えることもあるんですよ」 そう言ったあとにちょっとだけ笑ったが、その笑いさえも、なんか場違いで不謹慎な感じがして、直ぐに辞めた。 「幸子とは連絡は取れました。女友達の所にいたのよ、本当に参ったわ、初めてなのよ、まったく、本当に」 「そう、ですか」
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