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痣
ある日、腕に痣ができていることに気づいた。
左の二の腕の真ん中あたりに、ピンポン玉くらいの鬱血箇所があったのだ。
思い返してみるが、何かにぶつかったとか何かを当てられたとか、そういう記憶は一切ない。暴力沙汰などもってのほかだ。
これだけはっきりした痣があるなら、それなり痛い思いをしただろうに、まったく身に覚えがない。
出勤時などのゴタゴタした時間帯に、うっかり何かにぶつかった。でも急いでいたから忘れてしまった。多分そんな所だろう。
そう思い、痣のことはそれきり考えなかった。…次の痣を見つけるまでは。
最初の痣が薄れてきたくらいに、二つ目の痣を見つけた。
今度は足で、右腿の裏側に、前より少し大きい痣ができている。
足だって無意識に色んな所にぶつけるだろうけれど、さすがに腿の裏側、しかもど真ん中にこんな痣ができるようなぶつかり方をすれば、それは記憶に残るだろう。
なのに俺には何一つ覚えがない。
でもすぐに、それがどうしてなのかが判った。
三つ目の痣を発見する前夜、俺は奇妙な夢を見た。
子供になった自分が母親に殴られている夢だ。
夢だという自覚はあるのに、いや、あるからなおさらなのかもしれないが、殴られた部分が痛かった。
そして目を覚ますと、夢で殴られた場所には痣ができていた。
不思議なことに、前二つの痣も夢の中でついたものなのだと、俺はあっさり納得した。他に、痣ができる原因がなかったからだ。
ただ、納得したからといって、それで総てが解決する訳ではないのだけれど。
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