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「センセ、バイト代少なくない?もっと出させようか」
レストランでの一件の後すぐ、優一の家庭教師の為に家に訪れると。俺の腰に抱きつきながら、可愛く小首を傾げた。
「お前、どうして……」
「だってオレと会えない時間って、他の生徒と2人きりでいるってことでしょ?嫌だよそんなの」
言いながら上目使いで眼鏡を外す。
「全部オレだけの為に使って。学校とか事務所とかは、センセの為だから我慢してあげるけど」
隠す物の無くなった彼の瞳は、飢えた獣のようにきらめいた。
「何を言って---」
「プリズムみたいって言ったでしょ?」
「は?」
ポケットから硝子の欠片を取り出して、目の前にかざす。
「周りの空間と異なる屈折率を持つんだって。これに通すと、光が別の方に曲がるんだ」
以前俺が教えた言葉を、そのまま口にする。
「“本当のオレ”がどんなでも、正常に見せかけるのは簡単だったよ」
かざした欠片を片目で覗き、硝子を通して俺を見る。
「前髪で隠さなくても、眼鏡があればプリズムと同じ役割なんだ」
何が面白いのかクスクス笑う。
「だからね、常識とか法律とか。何とでもなるんだよ?センセ」
口角を上げて傲慢に笑うその表情(カオ)は、美しい淫魔(サキュバス)のようにも見えて。
「何……を」
俺の前に屈んでジッパーに手を掛け、前をくつろげさせる彼にただ魅入っていた。
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