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「止めろ!」
とっさにその手を掴んで突き飛ばし、衣服を整え身を翻す。
「センセ、行かないで!お願い」
しゃくりあげながら懇願して縋る優一を振り切って、逃げるようにその場を後にした。
愛に飢えていた彼に、必要以上に踏み込んでしまったのかもしれない。
『我々は仮面夫婦でね。互いに思う相手がいるから仕方が無いんだ』
『でも跡継ぎは必要だから、優秀な子供を養子に取ったんです』
自分たちの見る目が正しかったと、自慢げに話す優一の養父母を見てうすら寒くなった。
『“優秀で”“一番になる”から優一なんだって』
自分の名前が嫌いだと、吐き捨てるように言っていた彼は、いつも俺に礼がしたいと、金や身体で払おうとしていた。
ただ彼を抱きしめてやれば良かったのかもしれない。
だけど『自分を大事にしろ』と、月並みな事しか口から出なかったのは。
(獣か、俺は……)
いつ切れるか分からない、脆弱な自分の理性のせいだった。
彼の整った薄い唇に口付けて、その内部を味わい尽くしたい。
的確に自分のツボをつく、あの指先で全身に触れられたい。
「くそっ。それじゃアイツらと同じじゃないか」
夜な夜な街に彷徨っては、男女問わず枕を交わしてきた優一。悪いのはそれに付け込む大人の方だ。
沸き上がる欲望を誤魔化すように、街で浴びるほど酒を飲んでやり過ごした。
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