プリズム

9/21
前へ
/31ページ
次へ
「工藤先生」 話があるからと、優一の両親に呼び出されたレストランに顔を出す。 「すみません。遅れました」 勉強の為に手伝いに行ってる弁護士事務所の、バイトが長引いてしまった。 優一が頻繁に自分のアパートに出入りしているのが知られたのか、それとも夜な夜な街に繰り出していた息子の相談か。 何を切り出されるかと、頭の中であれこれ模索していると。 「先生のお陰で息子の成績も上がり、生活態度も改まったようです」 「本当に先生には、なんとお礼をお伝えしたら良いか」 養父母に笑顔で頭を下げられ、わずかに良心が傷んで苦笑する。 「いえ、俺は何も」 食事をしながら優一の成績の話など報告した後、おもむろに切り出される。 「先生は掛け持ちなさってるんですのよね」 「え?ええ。複数持たないとキツイので」 弁護士事務所だけでは足りず、家庭教師のバイトで繋いでいる。実家には学費以上では、迷惑を掛けたくないからだ。 「それ、優一だけに絞って頂けませんか」 「は?」 「他の生徒に割く時間を、息子の為に使って欲しいんです」 提示された上乗せのバイト代は、他の生徒の分を合わせても遥かに高い金額だった。 「でないとまた息子が、夜遊びを始めるかもしれないと言い始めてしまって」 “センセがいないと寂しい” 口癖の様な言葉は、養父母にまで言っているようだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

327人が本棚に入れています
本棚に追加