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どきどき、バクバク。息を止めていたことに気づいて唇を離そうとするけど、達哉の強い腕に阻まれて身動きが取れない。鼻で空気を吸い込む。達哉のミントの匂いでさらにくらくらとした。どうしてキスなんかするの? 演技だからってそこまでしなくていい。
熱い……寒い筈なのに、どんどん体の芯が熱くなっていく。
しばらくして、達哉は腕を緩めた。それと同時に唇は離れた。
「た、達哉?」
「ごちそうさま」
達哉はにやにやと笑っていた。もしかしてからかった?
「や、演技じゃなくて遊びなの?」
「なんだよ。間接キスも本当のキスも大して変わんねえだろ」
「だって」
「なに、意識してんだよ。いい大人のくせに。キスぐらいで慌てるなよ」
「ひどい……」
私はうつむいた。ひどい、肩を抱いたり手をつなぐぐらいなら気持ちがなくても許せるけど、キスは違う。遊びでするものじゃない。鈴木夫妻が私たちのところに来て、見せつけてくれるわね、とか、若いもんにはやられた、とか話しかけてくれたけど、私はみじめな気持でいっぱいでずっと下を向いていた。コイツ恥ずかしがりやで、とかなんとか達哉はごまかしていた。
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