プロローグ

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 《オーロラを見ると世界観が変わるよ。》      ……と言ったのは、1年前に別れた元カレでした。    (はあ……)    真田愛弓(さなだあゆみ)こと私は、三十路を目の前にして恋人に振られた。元カレは取引先の総務部の人で、私の勤める文房具メーカーに大量注文するにあたり、見積もりを依頼してきたのがきっかけだった。普通ならメールでデータのやりとりをして会うこともないが、たまたま会社も近いからと彼はノートやボールペンに印字する社名やロゴマークのデータをわざわざうちの会社まで持ってきた。  こんな注文、普通なら雑用係のペーペーの新入社員か事務の女の子がほとんど。会社でなければリタイヤしたおじいちゃんたちのゲートボール同好会のおそろい万年筆とか、こどもたちの行事で配る学校名入の鉛筆とか、そんなところ。なのに指定された時間、うちロビーに現れたのはスーツをビシッと着こなした背の高いイケメンの男だった。初対面の彼を見て、私は面食らった。 「初めまして。○×商事の松田と申します」 「は……初めまして。あ、どうぞこちらへ」    彼を見た瞬間、どきゅーんと体の中で弾ける音がした。それこそ心臓をバズーカ砲で撃ち抜かれたような衝撃で、これが一目惚れというものなのかと考えながら商談に応じた。もうパニックだった。彼が言葉をささやくたびに耳はしびれ、彼が指で注文票をさすたびに目がチカチカし、そのたびに私の脳内はクラクラした。ようやく商談を終えて彼を玄関口まで見送って、そのときに彼から言ったのだ、今度食事にでも行きませんか?、と。私は、はい、と返事をするのが精一杯だった。    その数日後に誘われて出向いた洋食屋さんで彼は突然打ち明けた。前から私を駅で見かけていて、気になっていた、と。たまたまうちの会社に入っていくのを見て、注文もうちに決めた、と。そしてロビーに出てきた私を見て運命だ!と彼は思ったらしい。   「もし彼氏とかいないなら付き合って欲しい」    私は二つ返事でOKした。その日のうちに手もつないだ、キスもした。私は再びバズーカ砲で打たれて即死寸前だった。
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