*.*空を見上げる少年が思う事*.*

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* 灰色の道路やそれを照らす街灯もコンクリートの家も無い、現代と言う言葉を何処かに忘れて来たかの様な古めかしい風景。 横幅の広い道には大小様々な石が自由の転がり、建ち並ぶ家々は自然素材満点の木造。 夜。 街頭の代わりに嬉々として地上を照らすのは空に浮かぶ月と瞬く星達。現代では街頭の光などで霞んでしまう星空を眺め、一人砂利道を歩く少年は思う。 そら (天に手が届きそう) 出来ないと知りつつ少年は腕を伸ばし開げた手を閉じそしてまた開く。二三繰り返した少年は満足そうに手を降ろした。 何時の間にか止まっていた足を動かす少年は、もう星を眺める事は無かった。 **** 夜の深まる空の下、貴重な油で部屋に明かりを灯す家があった。 部屋の主は横長の黒い机に置かれたザラりとした白紙を前に、畳に座り筆を走らせるがふと手が止まり筆を置くと、頭をがしがしと掻き深いため息を漏らした。 「はぁー、くっそ全然尻尾が掴めねぇ」 愚痴を零し視線を逸らした先には、一つの割られた紅い果実が置かれている。 部屋の主を悩ませている元凶の手掛かりであるそれは、近頃京の町に出始めた人斬りが死体の傍らに残してゆく物だった。 素手の力だけで無理矢理半分に割られ果汁を垂らすその実から、町人はその人斬りを“血濡れの柘榴”と呼んでいる。 「副長、竹芳です」 部屋の外。 門で夜警をしている筈の者から声を掛けられ、彼はまたため息を漏らし障子に目を向けた。 「どうした」 「その、門に少年が来てーー」 (少年?こんな夜更けにか…?) 疑問を持ちながら言い淀む声に耳を傾けていた彼だが、続いた言葉に真偽を確かめ様と立ち上がった。 『ーー人斬り“柘榴”を知っていると』 *.
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