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ガリガリ、ザリザリ。
(…彼奴か)
門の手前、月光を遮らない様に木の棒で地面に何やら刻む少年の背を伺い、彼は足音無く近付いた。
「おい」
「…!?」
彼にとって無音と気配を消すのは当たり前な事だったが、余程不意を突かれたのか掛けられた声に驚いた少年は、バッと後ろを振り返り彼を見咎めると、深く安堵の息を漏らした。
「心臓に悪いよここ」
何処か涙声に呟く少年に罪悪感を抱くが目的を思い出し要らぬ感情を振り払う。
「てめぇは何を知ってる?」
その問に汚れた足元の着物をポンポンと払い立ち上がった少年はにこりと笑顔を見せる。
だが、彼には嫌な予感がした。
少年の笑顔が隙を見ては悪戯をする身近な者の笑顔と被ったからだ。
「その前に俺と取り引きしませんか?」
にこにこと笑いクスリと声がしそうな、少年のふてぶてしく言う姿がまた身近な者と被り、一瞬殺意が湧いた。
同時に漏れた殺気に少年の笑みが引き攣った。
「取り引きだと?」
「…あ~……人斬り“柘榴”の事を教える代わりに、俺を匿って下さい」
「どう言う事だ?」
「それも含めて取り引きです。匿ってくれますか?」
完全に笑顔を消し確信を持って言う少年の顔からは、先程と違い何かへの覚悟が伺える。
(とんだ餓鬼が来たもんだ)
内心ため息を吐く彼だが、顔には実に不敵な笑みが浮かんでいた。
「良いだろう。名は?」
「俺は雨守清です。あなたは?」
「土方だ」
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