プロローグ

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……まさか、変な想像してへんよね? 朝の電車の混み具合のことやからね? そう言う間にも電車が大きく右に傾いた。 必死で足で踏ん張り、隣のスーツのお姉さんと同じ角度で体を曲げながら、車体の傾きに耐える。 中学からこの電車を利用している私は、これくらいの揺れには負けない。 でも、一緒に通学しているこまちゃんは高校から電車通学組で、まだそこまで熟練していない。 「今、私の手ぇと足、バラバラやねん……鞄、どっかいってまいそうー」 苦しそうなこまちゃんの声。多分、鞄は2つの指の第2関節あたりでなんとか持ちこたえてる状態だろう。 「あかん、指がつりそうや……」 やっぱり……。 「わかった。もうちょっとだけ辛抱しててや!」 声をかけながらこまちゃんの足元に目を向けると、確かに今にも床に落ちそうな鞄が見えた。 いっそ床に落ちてしまえばいいけど、これだけぎゅうぎゅう詰めだと、人の体と体の間に挟まってどうにもできない状態だ。 こまちゃんの指から離れたら、そのまま人の波に押されて鞄が遭難してしまいそうだ。 とりあえず私が預かっておこう。 「すみません!」 こまちゃんの鞄を押し付けられているおじさんに謝りながら、手を伸ばしながら自分に引き寄せて、私の鞄と二つ持ちする。 「こまちゃん、鞄、捕獲!」 「ららー、ありがとー!」 路面電車「京トラム(きょうとらむ)」。これが今、私たちの乗ってる京都市街を走る私鉄の名前だ。 昔はあちこちに路面電車があったそうやけど、ほとんどが地下にもぐってしまって、今残っているのはこの路線だけになっている。 2両編成の電車は、せまい京都の街の中の、車がびゅんびゅん走ってる間をぬけていく。 曲がりくねった道も多いから、車両の揺れが半端ない。 その京トラムで通勤と通学ラッシュが一緒になったら、すごいことになる。
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