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「座るの?」 前を歩いていたもへじさんは、バス停前のベンチ前でいきなり振り返って尋ねてきた。 「は、はい! お願いします!」 反射的にお願いする。 ゆっくり腰掛けるもへじさん。 えーっと……。 私も座らないとだめですよね……。 立ったままボタンつけする技はもっていない。 でも、当たり前みたいに隣に座っていいんやろか。 「失礼します」とかいうたらいいんかな……。 すぐ隣に座るの、馴れ馴れしいと思われるかな……。 一人もだもだしている私を、ベンチの端に座ったもへじさんは、無表情のまま見上げた。 変やな……。 本人を前にしても、なぜかもへじさんの顔は「へのへのもへじ」のまま。 本当に目が「の」の字に見えたり、「も」の字の鼻に見えるわけはないけど、どんな顔か、ようわからへん。 顔を見分ける機能がフリーズしているみたい。 どこかおかしいんやろか。 そんな私の戸惑いをよそに、もへじさんはマイペースに聞いてくる。 「座らないの?」 「も、もちろん座ります!!!」 ……何がもちろん、や。 妙に力んでいる自分が恥ずかしいわ。 心で突っ込みながら、とりあえず20センチほど距離を空けてベンチに腰掛ける。 「……」 微妙な間。 な、なんか言わんと!!! 「……」 焦れば焦るほど、言葉がまとまらない。 「……脱いだらいい?」
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