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口を仮止めした私は、ひたすらボタンつけに集中していた。 もへじさんと私の間にできた20センチの隙間は、軽くたたんだ制服の袖以外の部分で埋まっている。 でも、埋まっているのは隙間だけ。 「……」 「……」 会話ゼロ。 もへじさんの目線がどこにあるかなんて探る余裕なし。 もへじさんの体がある側の自分の体が微妙に強張っているのを感じながら、黙々と糸と針を動かす。 気のきいた会話なんて浮かばへんし、うっかり喋ったら販売のお姉さんみたいな言葉しか出てこーへんとなると、黙るしかないやんか。 せやけど。 自分が黙ってるくせにいうのもナンやけど、もへじさんも大概無口な人やな……。 もしかして、早く帰りたいの我慢しててむっとしてはるんかも? そや、なんでそんな簡単なこと気がつかへんかったんや! 今日の私は朝からずっと、ずっと、おかしい。 とにかく早く終わらせな……! 「……」 「……」 沈黙合戦を続けたまま、なんとか最後の玉どめまできた。 あと少し! 糸足にぐるぐる糸を巻きながら、ようやく強張っていた体の力が抜けた気がした。 そこに、狙ったように静かな声が聞こえた。 「それ、アツモリソウ?」 「!」 手を止めて、声の主を見る。 もへじさんの視線はゆるりと、鞄のチャームから、私のほうへと動く。 それにつられたように、私の視線ももへじさんをとらえる。 初めて、もへじさんの目をちゃんと見た気がした。
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