プロローグ

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朝8時台の京トラムは、スーツ姿のおじさんやおねーさんと、制服姿の学生の佃煮状態だ。 私たちが降りる駅の近くには、私立の高校が3つもあるから、学生率が特に高い。 その上、今日の混み方はかなりひどい部類にあたる。 「今日はまた、めっちゃ混んでるな……ごめんやけど、ららに抱きついといてもいい?」 「ええよ、しっかりつかんどいて」 そういうと、こまちゃんはすぐに向かい合ったまま、私の腰に手を巻きつけてきた。 「ありがとー、らら! いつもながら男前!」 「こんな女らしい子に、何いうんよ」 ちなみに私は胸にこまちゃんのと二つ鞄をもってるから、その鞄ごとこまちゃんは私を抱きしめてる感じだ。 いや、しがみついてるというほうが正しい。 とにかく、なんとかして自分の体は自分で守らんと、この電車の中では生きていけないのだ。 「ははっ」 私の腰にしがみついてるこまちゃんが笑った。 「今日もららの体はぬくいわー」 「それ、いわんといて。それから私の名前を大きい声で何べんも呼ぶのもやめてー」 「はははっ」 あっけらかんと笑うこまちゃんが憎らしい。 ひらがな2文字で、「らら」なんて……。 嫌いなのではない。 「両親からもらった名前、嫌いなんて言うのは、それは自分で自分を貶めることや」と、おばあちゃんにも言われている。   けれども最初に私の名前を聞いた人、100人が100人微妙な顔をするのは、なかなかに切ないものだ。 おばちゃん世代の人は「かいらしい名前やねえ」と、お愛想でも言ってくれるから、まだいい。 たいていの人はもっとあからさまだ。 ボソッと「キラキラネーム……」とつぶやかれたりもする。   で、次に私の顔をまじまじと見る。 その表情がこう言っている。 ――顔はキラキラちゃうやん……。
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