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ミッションスクール薫風女子高校の最寄り駅は無人駅だ。 路面電車だから、駅は当然道路の真ん中にある。 でも、駅というには殺風景なところだ。 線路と駅の高さの差は20センチくらい、幅は1メートルもない。 つまり幅広め、少し高さのある石畳が十数メートル続いているという感じ。 もちろん、屋根なんてない。あるのは石段だけ。 毎朝石段としか言えないような「駅」にめがけて電車のドアから、人間が雪崩をうってこぼれ出てくるのは、マンガみたいやと思う。 薫風の他に仏教系の女子校と、進学校で有名な東稜高校、3つの高校の生徒が一気に下りてくるから。 その様子は、「ぼわっ」っていう擬音がぴったりくる。 今日の私は、自分とこまちゃんの鞄を握りしめたまま「ぼわっ」の一員として、駅を降りた。 「はー、今日もきつかったわー。らら、ずっと鞄もってもらってごめんなー。ありがとう」 「ええよ、これくらい」 並んで歩きながら、鞄を手渡す。 可愛いものが好きな彼女の鞄には、ウサギのぬいぐるみやらなんやら、いろいろぶらさがってる。 もしかしたら教科書より重いんちゃうかいうくらい、にぎやかだ。 私の鞄は、目印用に黒っぽい楕円形の黒い板に絵が描いてある小さいチャームをつけてるだけ。 高校生がつけるには渋いというか、地味なものやけど、私にとってはお気に入りのチャームだ。 あらためて考えてみたら、私って、顔も性格もとことん地味、だ。 本名だけキラキラ。 ……いけてへんなあ、と自分でも思う。
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