第1章

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俺はダウンジャケットを解体している。 手先は器用だ。服飾専門学校を卒業したばかりの21歳。ショップスタッフをしている。 ジャケットはロング丈で、色はブラウン。 羽毛を取出し、札束を詰め、不自然に見えないよう羽毛を足した。 余った羽毛は、枕カバー的なものを作ってそれに詰めた。枕として使えるんじゃないかと思ったため。こういうところが庶民なんだな。 さらに、ポケットを複数縫い付けたスペシャルコルセットを作成。ここにも相当な量の札束を収納する。 コルセットを巻き、ダウンジャケットを着る。 こうして俺は常に1万枚の1万円札を持ち歩く人間となった。 そんな重いもの家に置いて行けばいいという話だが、うちのアパートには勝手に入ってくるタイプの大家がいる。 銀行に預けたくてもあいつら銀行さんは「失礼ですがどのようなお金ですか」と聞くだろう。 10㎏という重さは、はじめこそ苦行のように感じたものの、己の肉体を鍛えるウエイトリストのようなものだと考えたら徐々に慣れていった。 冬という季節と、やせ形の体型が功を奏し、すれ違う人間から奇妙に思われている感じもない。 しかし・・・。 何もしていないのに、交番の前を通るときのこの犯罪者感はなんだ。冷や汗が出て、足早に通り過ぎてしまう。 多恵子が一緒だったら「ジロウ、そこをあえて行くのが粋でしょ。おまわりさんに道聞いてきてよ」とか言って、無駄にスリルを楽しんだだろうに。 ・・・出会わない方が良かった。
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