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「おや、手紙かい」
胸に顔を埋めようとしていた女が、男と自分が纏う以外の芳香に鼻を鳴らす。
錫杖の男の着物の胸元に、封がされた一通が挟まっていたのだ。
「つい先刻、預かってきた」
酒場にいた給仕女が男の襟元へ、動作に紛れるように差し込んだものである。
橋は異界と現世の境を繋ぐと言われている。川のこちらと橋を渡ったあちらでは、時に別天地というほどの隔たりが存在し得るのだ。彼岸と此岸の間にも、所謂、川は流れている。
敵や病気の侵入を防ぐ要衝となっている重要な橋には、対抗するための神霊が祀られた。外敵を防いでくれる守護神、塞の神には供物が捧げられることになる。諸事情で、人柱や架橋の際に犠牲になったものの怨霊や、魍魎が棲み着いていることが多いのだ。
「妹さんからの便りだろう」
橋の強力な守護神の一つが、橋姫である。
橋姫は若く美しい独り身の女であり、嫉妬深い。
彼女たちは、愛し合う男女の連れ合いが、自分の橋を渡ろうとするものなら、必ず破綻させてしまう。又、遠く離れた土地の橋に姉妹がいると言われる。彼女たちは己が棲んでいる橋の近辺から離れることができないため、橋上を通る旅人に手紙を託す。
無事、届けないと祟られることになるのだ。
否も応もなく。
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