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西葦原という名の辺境の対岸辺りにある洲では、舟運業が発達している。
元々架けられている幾つもの小さな橋を利用すれば、新地に行くことは可能である。とんでもなく面倒な回り道には違いなく、考えることは公儀其の筋、皆同じであった。
架橋は最終目的ではない。橋を架けることは過程の一つであり、橋が架かれば新地開拓が行われる。開拓の先には、更なる新地への侵攻という政を司る者の思惑が存在していた。
ところが莫大な資金は元より、川幅や急流、土俗の風習など大小多くの問題で、橋の完成は困難を極めるとされた。
もっとも、橋に関する工事は大抵、難しいものではある。
だが、新地開拓は重要な施策であり、架橋が必要不可欠だった。
何度かの失敗に、遂には何者かによる御託宣によって、供物を捧げることが告げられた。
水辺と湿地に一体ずつ。
二つの犠牲によって、事業は成就するであろう。
捧げられる供物に選ばれたのは、若く美しい女だったと聞いている。人柱となるのは、組織社会の中での弱者であった。
例えば、子どもや罪人などを含めた訳ありの若い女性。
組織による理不尽な取り決めは、いつ何時でも個人を苛むのだ。
「都から件の地に役人が送り込まれているんだが、音沙汰がないみたいでね」
「御上から頼まれた仕事なのかい」
「否、その役人からの依頼だ」
明らかに気に喰わない様子の相手に、錫杖の男が楽しそうな顔つきで首を横に振る。
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