特殊詐欺

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 それ以来、もう何年もこの家は空き家のまま…ということだった。  その話を聞いて、そんなバカなと俺は思った。  電話をかけたのは間違いなくその家だし、婆さんも俺を息子と信じた。  なのに、もうその家には婆さんも息子もいないって?  …たまたまの偶然で違う家に電話をかけた。これまた偶然、そこの家の息子と今回名乗った名前が一緒だった。  きっとそうだ。そういうことだ。  強引だが、無理矢理その考えを信じようとした俺の携帯がふいに鳴った。  出ないという選択はできなくて、おそるおそる電話に出てみる。とたん、待ち侘びたような声が溢れる。 「どうしたの? お金、必要なんでしょ? ちゃんと用意して待ってるから、早く取りに来なさいよ」  今日、騙して金を巻き上げる予定の婆さんだった。あの婆さんの声だった。  聞いた瞬間全身に鳥肌が立ち、電話を切ったが、すぐに着信があった。今度は出ずに切れるのを待ったが、何度も何度も電話はかかってくる。  耐えかねて着信を拒否したのに、それでも電話は鳴り続ける。  もう、電源を切るしかない。そう思って操作したのに、何故か電話は通話状態になった。 「待ってるから。早く来なさい。早く、ここへ、来なさい。待ってるから…」 * * *  数日後、とある特殊詐欺犯が捕まった。  自首してきた受け子役の男は半ば錯乱状態だったが、男の証言を元に警官達は詐欺犯のアジトへ向かった。  そこには主犯と思しき男がいたが、どういう理由でか正気を失っており、今も元に戻る様子はないという。  ちなみに、押収した証拠品の携帯電話に、現在は使用されていない固定電話からの着信が異常な程残っており、それらが、主犯の男がこうなったことに関係しているのではないかと、目下警察は捜査中だ。   特殊詐欺…完
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