第1章

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では、なぜ、僕はここにいるのだろうか? と、不思議に思われる人もいるだろうから! そうだ、なぜ僕はここにいるのか? さっきまだ「出来ていない!」と言った20代の地元の娘も、不思議そうな眼で僕を見ていた。 どこか遠くを見ているような目! それが、ここに来ての僕のイメージ。 なぜ、僕はこの町!シギショアラの滞在しているのか? まるで、日本から逃げるかのように、 逃げる? 逃げる、だって? なぜ逃げなくてはいけないのだろうか? いつも、アレに惑わされていたからではないのか? アレは、あまりにも僕には危険だった。 だから、ここに旅立つ時も、その日時でさえも教えなかった。 同じ血族の兄妹なのに。 僕は妹の里穂に、この場所でさえも教えてはいない。 6月というのに肌寒い日が続いていた。 バートリー家の屋敷は、敷地に二つほどあり、僕は門よりの屋敷を借りていた。 特に家賃は高くは無く、東京市場?よりは埼玉市場で言えば所沢か和光の1LDKマンションの賃貸と同じ、8万円前後だったが、後は交渉自体で、もっと安くなると、ロンドンの優男は言っていた。 2週間後に東京からの第一陣の荷物も届いて、その段ボールの箱を見ていた。 ひんやりとした屋敷。 その中で、僕は暖炉に火を付け、薪の炎を見つめている。 屋敷の裏には山積みにされた薪が置いてあり、それを持ってきて使っていた。 薪の焼ける音が、この部屋に響き渡る。 もうすぐ、昼時になりそうで、水色のダウンベストをシャツの上に着出した。 小鳥たちが、思い思いに囀(さえず)っている鳴き声が、一際大きくなったとき、大型の犬の吠える声が聞こえ、僕は窓を見た。 窓には、一瞬!ブロンドの女性が映ったが、直ぐに横切り、この屋敷のドアを叩く音が聞こえた。 「どうぞ」 僕は慌てていたので、日本語で話した。 ドアがゆっくりと開く音と共に、犬の足音が廊下から聞こえてくる。 窓際から、僕の部屋のドアに移ろうと歩き出した時、大型犬のシェパードがドアの隙間から入ってきた。 シェパードは僕を見て、怪訝そうな顔で、その場に立っていた。
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