7人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、どうしたの?なに考えてるの」
「別に」
別に?
「まあ、いいわ、さっきは御免なさいね。ミハイルったら、普段はあんなことをするコじゃないのよ」
「ああ」
「あの犬(コ)さ、ハーフなの」
「ハーフって?」
彼女の瞳はエメラルドグリーン。
まるで、深遠なる森の中に吸い込むかのように妖艶な光を宿している。
「あのコは狼犬なの、だからちょっと体毛がグレー系でしょう?」
灰色の色が、そう言えば目立つような気はするが、しかし、そんなには感じないか!
「だから、よく満月に遠吠えをするのよ、あの月に向かってね」
昼間の空を指差す彼女は、無邪気に笑った。
「嘘よ、本気にした?」
「ああ」
僕はず~っと呆気に取られている。
「あ、そうだ。まだ、オーダー頼んでないのよね、なんでもいい?」
「ええ、なんでも」
「じゃあ、コウモリの丸焼は?」
彼女は、まるで子供のようにコロコロ笑う。
「ねえ、冗談、嫌い?」
「いや」
僕は、急に身体が火照ってきたので、ダウンベストを脱ぎ始めた。
ヴィクトリアは大きな声を出して、下の店長に何か早口で色々なメニューを頼んでいた。
「あんまり、お金の持ち合わせが無いけど」
「大丈夫よ、いつもツケなの」
彼女のグリーンの瞳が、まるでカメラレンズのフォーカスのように絞っていく。
「私の瞳を見ているんでしょう!こんな瞳は、初めてよね?」
「そうだね」
「私ね、小さい頃はよく、この瞳の色のせいで、苛められていたのよ」
そう言って、白いテーブルクロスの上に置いてある食前酒?地元の赤ワインを飲む。
「渾名(あだな)は、なんだと思う?」
「さあ、どうだろう」
「魔女よ!魔女って呼ばれていたの、本当!ここの男の子ときたら、魔女とか、女ドラキュラとか、酷いと思わない?」
「土地柄が、土地柄だから、ね」
「ふ~ん、あなたも、そのクチ?」
「えっ?」
「だ・か・ら、このトランシルヴァニアの、吸血鬼伝説がお目当て!なのね」
「そう言われれば、そうだろうな」
「あなた、学生?」
「そうでもあるし、そうでもないかもしれない」
「どう言うこと?」
「卒業して、今度は大学院に行くか、どうか、迷っているんだよ」
「日本、の?」
「そう!」
最初のコメントを投稿しよう!