第1章

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「ねえ、どうしたの?なに考えてるの」 「別に」 別に? 「まあ、いいわ、さっきは御免なさいね。ミハイルったら、普段はあんなことをするコじゃないのよ」 「ああ」 「あの犬(コ)さ、ハーフなの」 「ハーフって?」 彼女の瞳はエメラルドグリーン。 まるで、深遠なる森の中に吸い込むかのように妖艶な光を宿している。 「あのコは狼犬なの、だからちょっと体毛がグレー系でしょう?」 灰色の色が、そう言えば目立つような気はするが、しかし、そんなには感じないか! 「だから、よく満月に遠吠えをするのよ、あの月に向かってね」 昼間の空を指差す彼女は、無邪気に笑った。 「嘘よ、本気にした?」 「ああ」 僕はず~っと呆気に取られている。 「あ、そうだ。まだ、オーダー頼んでないのよね、なんでもいい?」 「ええ、なんでも」 「じゃあ、コウモリの丸焼は?」 彼女は、まるで子供のようにコロコロ笑う。 「ねえ、冗談、嫌い?」 「いや」 僕は、急に身体が火照ってきたので、ダウンベストを脱ぎ始めた。 ヴィクトリアは大きな声を出して、下の店長に何か早口で色々なメニューを頼んでいた。 「あんまり、お金の持ち合わせが無いけど」 「大丈夫よ、いつもツケなの」 彼女のグリーンの瞳が、まるでカメラレンズのフォーカスのように絞っていく。 「私の瞳を見ているんでしょう!こんな瞳は、初めてよね?」 「そうだね」 「私ね、小さい頃はよく、この瞳の色のせいで、苛められていたのよ」 そう言って、白いテーブルクロスの上に置いてある食前酒?地元の赤ワインを飲む。 「渾名(あだな)は、なんだと思う?」 「さあ、どうだろう」 「魔女よ!魔女って呼ばれていたの、本当!ここの男の子ときたら、魔女とか、女ドラキュラとか、酷いと思わない?」 「土地柄が、土地柄だから、ね」 「ふ~ん、あなたも、そのクチ?」 「えっ?」 「だ・か・ら、このトランシルヴァニアの、吸血鬼伝説がお目当て!なのね」 「そう言われれば、そうだろうな」 「あなた、学生?」 「そうでもあるし、そうでもないかもしれない」 「どう言うこと?」 「卒業して、今度は大学院に行くか、どうか、迷っているんだよ」 「日本、の?」 「そう!」
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