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追いかけてくるアイツ
宝くじが当たった。
一億円だった。
銀行振込みにしてもらって、大いに喜んだ。
しかし、喜んでばかりもいられなかった。
夜、仕事が終わり、その帰宅途中で、アイツが必ず待っているからだ。
話をしたことはない。
声も聞いたことはない。
アイツは、ただただ、オレの後ろを追いかけてくるばかりだ。
不気味なヤツだ。
夜とはいえ、このクソ暑い夏に、ロングコートを着込んでやがる。
オレはいつも、走るようにして、家路を急いだ。
車を買い換えた。
家の電化製品もほとんど新しいものに代えた。
家のローンも完済した。
5千万、まだ残っている。
(残りは、ファンドでも買うかな?)
手堅い方が、この先、もっと楽になるかもしれない。
妻も、喜んでくれているようだ。
今は、休日の昼間。
オレは、家のリビングにいた。
ふと、窓の外に人の気配を感じた。
人影が横切ったように感じた。
オレは、窓を開け、辺りを見渡した。
誰もいなかった。
音も聞こえない。
人の気配はないようだ。
(気のせいか…)
神経質になっているようだ。
リックスするために、テレビをつけた。
また今日も、追いかけてくるようだ。
通勤経路を変えたのに、しつこいヤツだ。
オレは走って、家にたどり着いた。
この、『ジョギング』のおかげで、最近、かなり具合がいい。
駅から家まで、歩いて30分くらいかかる。
健康のため、歩いて通勤していたのだが、走って帰るようになるとは思わなかった。
「寄付金のご協力、よろしくおねがいしまーす!」
この暑い最中、大声で呼びかけている。
子供たちの団体だ。
夏になると、なぜだか、こういう活動が増えるようだ。
(この子供たちのために、アイスでも買ってやった方が、いいんじゃないだろうか?)
オレは、こんな想像をよくする。
オレは、このような募金活動は、いつも無視している。
善意から募金しても、その金がどう生かされるのか、わかったもんじゃないからだ。
もし、寄付をするのなら、主催している、自治体か団体に直接、渡しにいくだろう。
しかしオレは、そういう行為は、偽善者のような気がして、しかたがない。
(100万くらいなら、寄付してもいいだろうか?)
その金が役立つのなら、それでいい、と思った。
しかしやはり、金の流れがわからないことには、使いたくはなかった。
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