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長男の一郎さんがどっかりと胡座をかいて居間の上座に座りました。懐から取り出した煙草を加えます。
「親父は何考えてんだ! 無効だろ、無効。こんな遺言が認められるはずがない」
煙草に火をつけ、白い煙を吐き出します。私が禁煙を訴えると、一郎さんは「うるさい」と怒鳴りました。
ビリビリ響いた大声に私は何も言えなくなりました。一郎さんの嫁の市子さんは一郎さんの隣で「あなた。香代子さんに怒鳴っても仕方ないわ」と狼狽えながら、諫めます。
しかし一郎さんは「何が香代子“さん”だ。こんな奴に敬称なんか付けるな」とさらに頭に血が上った様子でした。
長男である一郎さんの怒りも無理もありません。だって庄一郎が遺した遺言は自分の娘や息子に最低限の遺留分を。後は全て私に、という遺言だったのです。
次男の二郎さんの嫁の仁子さんが二郎さんにしなだれかかったまま言いました。
「お義父さまはボケてらしたのよ。こんな遺言無効に決まってるわ。弁護士先生の到着を待ちましょ。ねえ、あなた?」
「……え? あ、ああ。そうだな」
「それにしても、まったく……ねえ」
仁子さんが二郎さんの手を放し、私の元に這いよります。仁子さんは白い腕を私に伸ばしました。
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