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恋人の庄一郎が死にました。
ただの恋人ではありませんでした。籍は入れられなかったものの、庄一郎と私はこの古い日本家屋で10年一緒に暮らしていました。
だから私は内縁の妻というものにあたるのでしょう。
毎日一緒に食事をして、毎日同じ布団で眠りました。夕飯時になると同じテレビを見て笑い合い、時折縁側に出ては四季折々の季節を感じていました。
私はこの家も庄一郎のことも心から愛していました。
特に庭の大きな桜の木は圧巻で、私と庄一郎は春になるといつまでも縁側に座っていたものです。去年、桜色の絨毯の上でじゃれ合った時の笑顔は忘れません。
来年も一緒に桜を見ようと約束していたのに、果たされなかった約束はどこにいくのでしょうか。
空に溶けて消えてしまうのでしょうか。
主を失い、私同様空っぽになったこの屋敷に、今までちっとも顔を出さなかった庄一郎の娘や息子家族がどやどやと押しかけてきました。
出迎えに玄関に出た私に皆、冷たい視線を向けます。無理もないのでしょう。
彼は、庄一郎は一億円の遺産を私に遺すと遺言をのこしていたのですから。
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