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「あなた。上手くやったものね。お義父さまに取り入って大金を手にして……」
黒いワンピースの袖から伸びる仁子さんの白い腕。冷たい指先が私の輪郭をするりと撫でました。私は仁子さんから目をそらし言いました。
「上手くなんて……とんでもない。私はただ庄一郎のことが大好きで……私は庄一郎だけがいたらそれでよかった。だから遺産なんて――…」
「言い訳してるつもりかしら。全く、飛んだ泥棒猫だわ。あなたが来るまではお義父さまは二郎のことを一番可愛がってらしたのに」
仁子さんの言葉に、長女の朝子さんが「あはは」と大笑いしました。
「可愛がってた? 違うでしょ。一番世話が焼けただけだわ。株で大損した時に損失を穴埋めするために、八王子のマンションを売却してお金を頂いたでしょ? そのぶんを生前贈与とすればいいじゃない」
私から手を離した仁子さんが朝子さんを見下ろして言った。
「嫌だわ義姉さん。生前のことまで持ち出すなんて、浅ましいわ」
「浅ましいなんて、あなたに言われたくないわよ! 元々は二郎の不倫相手だったくせに! よくこんな場に堂々と出てこれたわね。こんな水商売上がりの……っ」
激昴した朝子さんが仁子さんを睨みあげました。三男の三郎さんの奥さん“だった”美子さんは輪の一番隅で静かに俯いています。
一触即発の空気の中、インターフォンが鳴り私はそっと玄関に行きました。
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