298人が本棚に入れています
本棚に追加
笑いが止まらないらしい。なんとなく腹がたってきた。
「……そんなに笑う?」
ベッドからおりて、荒く息をつきながらお腹を抱えて笑い続ける一哉くんに近づく。私を見上げた一哉くんの目じりには涙がたまっている。
「だって、オレとのことインコー罪に当たるかもって思ったんでしょ?」
図星をさされて、頬が火を噴いた。
「だれがヤったこと知るっつーの。オレがケーサツに行くとでも思った?」
無邪気に笑う一哉くんは、初めて見る人みたいだった。あまりの笑いっぷりに腹立たしさも通り越して、私まで笑いがこぼれてくる。
「笑い過ぎ」
隣に座りこんで一哉くんの顔を覗きこんで、その頬を引っ張る。
「てて……涼さんいくつだよ、少し考えりゃ分かるっしょ」
楽しそうに笑う一哉くんの表情がかわいい。潤んだ目は、私をとらえたまま動かない。私の頬を火照らせ胸の奥が揺さぶられる。この数時間、一哉くんのことばかり考えている。そのことが何を意味しているのかを頭の片隅で一瞬意識して打ち消す。一哉くんには、彼女がいる。私は通り過ぎるだけの、そう……単なるセフレみたいなものだ。
「涼さん、かーわい」
一哉くんが微笑んで、ふくれている私の頬を撫でる。その優しい仕草にドクンと胸が高鳴る。いつも合わせてくれない目が、私をまっすぐ見ている。そのことをやけに意識してしまうと、見えない力で一本の線が結ばれたようにどうしても目をそらせない。
煙草と甘ったるい香りがよぎる。彼女がいる、18歳の年下の男の子。
好きになったらいけない。
一哉くんが腕を動かして私の髪に静かに触れた。そのまま髪に指を絡めるようにした一哉くんは、ゆっくり私の頭を引き寄せる。静まってほしいのに高鳴る鼓動をよそに、自然と目を閉じる。小鳥がついばむような柔らかなキスが気持ちよくて、このまま流されたいと望む自分がいる。
一哉くんの手が頭の後ろに回り、さらに強く引き寄せられて、唇を甘噛みされる。強引に絡むように差し入れられた舌に応えると、息もつかせないほどに濡れていく。合わさった唇を通してかすかに煙草の味がする。
最近どこかで覚えたような。一瞬の戸惑いに気づいた一哉くんが、わずかに身を放した。
「どしたの?」
「煙草の味……なんか覚えがある気がして」
「……そんなの……どーでもよくね?」
最初のコメントを投稿しよう!